パーソナルトレーナーの主な仕事は、筋力トレーニングを教えることです。誰もがそう思っていますし、お客様など一般の方からもそう思っている方が多いでしょう。もちろん間違いではありません。 ですが、ただ筋力トレーニングを教えるだけが仕事かというと、これは間違いです。ベンチプレスやスクワットなど数多くあるトレーニングを教えるだけだと、正直動画サイトやSNSなどで見れば誰でもできてしまいます。一対一で指導することの大きなメリットは、身体の検査や評価をしっかりとできるところにあります。同じ人間でも、年齢や性別、身長や姿勢など、全く同じ人はいません。その人にとって何がベストなトレーニングかどうかは、やはり評価しないとわからないところですよね。ですので、パーソナルトレーナーにとって身体を検査したり評価したりするのは、筋力トレーニングのメニューを組むよりも先にやるべきことと言えます。 また、中長期的にみたときの身体の状態の変化を表す指標としてもわかりやすいです。さらにはトレーニング中や日常生活でケガをしてしまった場合にも適切な検査と評価は必要になってきます。このテーマは前編後編に分けて検査・評価をする目的から実際にどのような検査や評価をしていくのかまで特に基礎的なところをお伝えしていきます。一つひとつ理解しながら読み進めていきましょう。
【1.トレーナーに必要な評価 検査】
測定と評価で最も重要な点は測定・評価に続くケアやトレーニングなどを検討していく上で正確で必要な情報を得ることです。処置やプログラムの立案において正確な情報をベースにするのは当然です。可能な場合、測定と評価のプロセスでスポーツドクターや理学療法士などの医療従事者と連携して行えるとなお良いです。その上でトレーナーが行う測定と評価の目的を達成するためには4つの基本能力が必要です。
これらの基本能力を基盤として、安全性と効率性を高く確保したケアやプログラムを導く測定と評価を実施することができます。
トレーナーの測定評価が必要な場面はさまざまです。運動中における外傷の発生場面、慢性障害への対応、リハビリテーション、コンディショニングチェックなどがあります。この際、まずトレーナーがしなければならないのは正確な状況の把握です。
どのような情報と測定・評価が必要なのかを判断する必要があります。性格で必要な情報を得ることができるように、一連の測定・評価を企画・実践していきましょう。わざと誰かに怪我をしてもらうわけにもいきませんので、実際を想定した練習やシミュレーションが大切になっていきます。
検査、測定・評価の解釈や判断の基準となるものは基礎情報の把握です。そのために、研究論文で公開されているデータとお客様のデータの比較が必要になってきます。それに加えて具体的なプログラムを作成するときには医学的な視点とスポーツ科学的な視点の両方の見方が必要不可欠です。これらのことからトレーナーが測定・評価ができることがどれだけ大切かが分かりますね。そのために必要になってくるのが、コミュニケーションスキルです。お客様への説明はもちろん他の医療従事者や関係者にも理解してもらえるような言葉選びや話し方が大切です。お客様には専門用語を使わず、子供から大人までがわかるような口調で、逆に医療従事者の方には、専門用語等と使った説明の方が理解してくれると思います。
自分自身も用語を知っておかなくてはいけないので、専門用語などもきちんと理解できる言葉に置き換えて話しましょう。私がその際基準にしていたのは中学生でもわかる言葉か、自分の親世代にも伝わる言葉かを考えながら話しています。
【2.機能評価について】
続いて機能評価について解説していきます。機能評価はいくつも必要な項目があります。情報の収集・状況の把握、検査・測定と評価の企画、検査・測定と評価の実施、検査・測定と評価の統合解釈、問題点のリストアップ、対応ゴールの設定、問題への対応手順の設定、問題点への対応プログラムの立案設定、効果判定があります。正直、身体の評価をするうえで要素はいくつでもあります。トレーナーも精密な機械ではないので、全てを100%完璧にする必要はありせんが、何から判断するかの項目材料は知っておいた方がよいでしょう。
情報の収集・状況の把握は最初のプロセスです。ここは測定・評価を行う背景や状況を、ある程度明確にするための情報を整理する作業になります。なのでこの段階で全体のイメージができるかどうかが後の作業に大きな影響を与えます。
企画に関しては情報をもとに実施目的を明確にします。目的を明確にすることで何を評価していくのかを明確にできるメリットがあるからです。それに加えて課題も明確にしていくことが重要になってきますので、ここは現在何をしているのかを明確に理解して行っていきましょう。
測定と評価の実施につては毎回同じ環境で測定・評価することは正直難しいです。なるべく同じ環境で検査・評価ができるように環境作りと技術アップをトレーナーの方は努めていきましょう。
検査・測定と評価の統合解釈は名前の通り得られたデータを統合して解釈します。ここで重要なのは、結果データの相互の関連性です。単一だけでなく複数のデータを観ることによって問題点を見出せます。これをリスト化するのが次の項目になっています。
その後は対応ゴールやプログラムの設定に入ります。これらを設定するときに必要なのがタイムラインを考慮しているか、複数の問題へのゴールができるバランスの取れたプログラムになっているかを見極めることです。そして最後に設定したプログラムをきちんと行えるかどうかの判定をしていきます。必要に応じては再度検査・測定と評価が必要になる場合があります。その都度見直しながら行っていきましょう。ただ単に評価するといっても、しっかりとデータ管理することが大切です。
ここからは機能評価に必要な検査測定について話していきます。
トレーナーが行う主な基本的な検査測定手技は、
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姿勢・身体アライメント・筋萎縮の観察
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関節可動域検査
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筋力・持久力検査
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全身持久性検査
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運動機能の敏捷性・協調性検査
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身体組成
以上の6つの検査になります。
この6つの検査とは別にHOPSというものがあります。ここではこのHOPSについてお伝えします。これは一般的に、
・問診 history
・視診 observation
・触診 palpation
・スペシャルテスト special test
の頭文字をとってHOPSと呼ばれていて、トレーナーが評価において情報収集をすすめる基本手段になっています。特に外傷障害を有する場合の検査・測定と評価に活用します。
それではひとつずつ詳しくみていきましょう。
まずは問診です。
問診では、既往歴、症状の現病歴と外傷障害の発生機序につながる情報を集めます。お客様やアスリートの方の現在の状況も把握しながら情報を集めていきましょう。
視診では形態の分析と動作の分析を行います。健側がある場合には左右差を観察することで問題解決のヒントにつながっていきます。この問診で、いかにお客様から信頼を得られるかが重要になってきます。身体のことを把握するのはもちろん大切ですが、質問責めになってしまい、尋問にならないように注意しましょう。
続いて触診です。触診では、必要な身体形態のランドマークを基準に触診を進めていきます。圧痛点、緊張感、腫脹、熱感を評価します。実際に視診で見た部分を触診することで多くの情報が得られます。ただ、このときに解剖学的構造を理解していないと触診をしても判断できないことが多いので解剖学的構造も説明できるようにしておきましょう。
最後にスペシャルテストです。一般的には整形外科的テストと定義されることが多いです。外傷障害の特徴をより正確に推測するプロセスになります。身体的構造へのストレステストなど損傷部位の特定や確定診断につながる情報を得ていきます。確定診断はドクターが行いますが、トレーナーもスペシャルテストの意義を理解して日々の指導にあたっていきましょう。
【3.姿勢・アライメント】
筋萎縮の観察と計測の目的及び計測方法 前半最後は姿勢やアライメントについてお伝えしていきます。まず、運動学では姿勢を構えと体位に分けて記載します。構えとは頭部・体幹・四肢の各体節の相対的な位置関係を示すものです。体節の相互の位置関係を関節角度の測定を通して表示します。例えば肩関節外転90°などです。一方、体位とは身体が重力の方向とどのような位置関係にあるのかを示しています。身体の面や軸と重力方向との関係を通して表示します。例えば、立位・座位などといいます。ここからさらに詳しくやっていきましょう。
基本的肢位についてです。基本的肢位とは、立位姿勢で顔面は正面を向き、両上肢は体幹にそって下垂、両前腕の橈骨縁は前方を向いて、下肢は平行して足趾が前方を向いた直立姿勢のことをいいます。言葉だけ見ると分かりにくいかもしれませんが図を見ると分かりやすいので図を探して参考にしてみてください。
次に運動の面と軸です。運動は身体内部に想定される3つの面で行われ矢状面・前額面・水平面があります。矢状面は身体の正中を通る垂直な平面で、身体を左右の半分に分けます。前額面は身体を前部と後部に分ける垂直平面で水平面は身体を上下に分ける平面です。運動軸はこれらの運動の面に対して直角に交わります。これも図を見た方が理解が早いので検索して探してみてください。
続いては姿勢のチェックです。姿勢のチェックはランドマーク(指標)を目安にして行います。前額面でのチェックの際のランドマークは、①後頭隆起、②椎骨棘突起、③殿裂、④膝関節内側、⑤内果、この5つです。
一方矢状面では、①乳様突起、②肩峰、③大転子、④膝関節、⑤外果、この5つになります。この5つのランドマークが一直線上にきているかをまず評価の基準にしてみてください。もし何かが一直線上になくずれている場合、何がずれているのか、なぜずれているのかをまた評価していく必要があります。このように姿勢をチェックする際にはランドマークを目安にしながら行うので被験者は軽装が望ましいです。このときに被験者のプライバシーには十分配慮して行ってくださいね。
そこから姿勢の観察です。静的姿勢を観察するときは基本的立位姿勢で行うのが一般的です。前額面での理想的な姿勢は先程のランドマークの5つが垂直に並んだ状態が理想です。矢状面での理想的な姿勢は、①耳垂、②肩峰、③大転子、④膝関節中心のやや前方、⑤外果の前方が垂直線上に並ぶのが理想になります。
前半の、検査と評価の内容は以上になります。かなり難しい言葉や単語がたくさん出てきてたかもしれませんが、ゆっくりで構いませんので少しずつ理解していってもらえればと思います。検査・測定と評価は、お客様を長期的に指導していく上でとても大切な部分になります。これがきちんとできるトレーナーは、筋力トレーニング指導だけでなく、ストレッチや施術などのスキル向上していくケースが多いです。実際、身体の悩みを幅広い観点から分析できるようになっていきますし、自分にも自信がついていくと思います。
確実に理解して、知識として落とし込めるまで繰り返し学び、評価する練習をすることをオススメします。次回は姿勢の部分をさらに詳しく話していき、実際の検査や測定の項目や方法をお伝えしていきます。
高月宏和(Hirokazu Takatsuki)
スポーツ系の専門学校を卒業後、J1リーグに所属する静岡の清水エスパルスに入社。一般の方からプロ選手までのトレーニング指導を5年経験したのち、パーソナルトレーナーとして独立。独立から7ヶ月後にパーソナルジム『BodyBrand』を設立。主に一般の方の『美姿勢づくり』『ダイエット』をサポートするパーソナルジムとして定評があり、現在は5名のトレーナーと活動中。