パーソナルトレーナーにとって、『言葉』とは商売道具の一つです。 美容師だとハサミ、野球選手だとグローブ、エンジニアだとパソコンというように仕事でよく使う物は必ずあると思います。 今回は、そんな『言葉』を仕事にするパーソナルトレーナーにオススメな話術を紹介していきます。
⑴ 言葉を武器にする。
パーソナルトレーナーの商売道具とは、なんと言っても『自分の身体』でしょう!という方。
はい、正解です。もしくは『筋肉!』と回答をする方もいますね。これも正解。
他の職業と少し違うことは、自分自身が商売道具ということです。少しアスリートに似ていますね。
その自分自身の中でも、最も重要、そしてよく使う商売道具としては『言葉』です。
一対一でお客様と接する時には自分自身が商品になるわけですから、『言葉』の一つ一つも陳列棚に並んでいる商品と同じです。
そしてその『言葉』というのはポジティブ語とネガティブ語が存在します。
このポジティブ語はいわゆる自分の味方になってくれるもの。ここでいうリピート率を伸ばしてくれる言葉ですね。
逆にネガティブ語というのは、自分にとってプラスとなるものを遠ざける力を持っています。
ネガティブ語を繰り返し使うと、信用を失うばかりか、お客様が離れていってしまう可能性大です。
例えば、ポジティブ語の例えとしては、
- 〜しよう!
- できる!
- いいですね!
などの前向きであったり、可能性を感じたりする言葉です。語尾にかけて上向きになるようなイントネーションですね。
ネガティブ語の例としては、
- 〜ない。
- でも、
- だけど、
などの否定形、および逆説的な表現を表します。
もう少しわかりやすく、お客様との会話で例をあげてみましょう。
『ポジティブ語を使った例え』〜 カウンセリング中 〜
お客様「食事制限って厳しそうで私には難しそう、、。」
➡︎ ポジティブトレーナー
「大丈夫ですよ!お客様に合った、継続できる食事方法を一緒に見つけていきましょう!」
➡︎ ネガティブトレーナー
「でもそんなことを言っていたら、ダイエットは成功しないですよ。」
どちらの方がお客様がより頑張ろう!と思い、慕ってくれるかがわかりますよね。
確かにネガティブトレーナーが言っていることもわからなくはないのですが、これだと例え契約してくれたとしても、継続してお客様でいてくれる可能性は低くなってしまいます。上向きな気持ちにならないですもんね。
お客様を気持ちよくさせる、自分のファンにさせる。
これが、『言葉を味方にする』ということです。
⑵ 契約の99%は、来館時の一言で決まる。
お客様は身体を変えるという大きな決断をして、初めてあなたのところにやってきました。
初めてのところですし、おそらくかなり緊張しておられるでしょう。
「どんなところだろう。」「どんな人だろう。」「自分にできるのかな、、?」
そしていよいよ対面。
あなたはどんな声をかけますか?
その一言で、お客様をさらに緊張させてしまうか、それとも安心させてあげることができるかが決まります。
もちろん、安心させる言葉をかけてあげると良いでしょう。
ここでいう『安心』とはどういうものなのか。それは、『来てよかったんだ』という安心です。
パーソナルジムに来館される方々は、おそらくほとんどの方が自分の身体にコンプレックスを抱いており、かなり本気でなんとかしたいと思っておられるでしょう。
フィットネスクラブではなく、わざわざ一対一で高いお金を払って来るんですからね。
そしてそのような方々は、本人が気付いていない心のどこかで、「自分なんかが行ってもいいのかな。」という思いがあります。そんな心境の中で、上述したネガティブ語などを使ってしまうと、そのトレーナーとその場所に対して壁を作ってしまい、その壁を壊すのにかなりの時間がかかってしまうんです。
しかし逆に、お客様を安心させることができれば、トレーナーとその空間に自分の居場所を覚え、安心して来られる場所という意識付けをすることができます。
そうなればもう契約は目の前です。
ここで例を紹介します。
(安心感を与える第一声)
- こんにちは!お待ちしておりましたよ!
- 初めまして!すぐに場所お分かりいただけましたか?
- こんにちは!外寒かったんじゃないですか?どうぞ、お入りください!
(NGな第一声)
- こんにちは。トレーナーの〇〇です。
- 初めまして。靴を脱いでお入りください。
完全に間違いではないのですが、いきなりトレーナーの自己紹介が始まってしまうと、お客様は萎縮してしまうケースも多いです。また「靴を脱いでください」というような、いきなり指示をしていまう言い方もNGです。
最初に施設のことを気遣うのではなく、まずはお客様に対して気遣う言葉をかけましょう。
本当に些細な一言で充分です。
ここで重要なのは、『少しだけ感情を入れること』です。
誰しも使ったことがある、当たり前とも言える文言かもしれませんが、「お待ちしておりました。」と、「お待ちしておりましたよ!」とでは、少しだけ言葉のトーンが違うのがわかりますか?
お待ちしておりましたよ!の方が、言葉としての感情が少し混入する言い方になるので、お客様としては親しみやすさを感じやすくなります。もう一つは、『相手を気遣うニュアンスを言うこと』です。
少しの感情+少しの気遣う言葉で、お客様はそのトレーナーに対して親しみやすく、かつWelcome感が伝わり、安心して対面することができます。もちろん、笑顔もお忘れなく。
⑶ 信用してくれるカウンセリング
カウンセリングはパーソナルトレーニングを行う上で最も大切なことになります。
お客様との関係性を築く上でチャンスとも言えますし、逆に失敗すれば、どんなにいいトレーニング指導をしても、継続してくれる可能性は低くなります。
ここで注意してほしいのは『話し方』ではなく『聞き方』です。
カウンセリングでは、聞くことに重点をおき、ひたすら相手から話してもらうことに徹しましょう。
お客様の目標、運動歴、食生活、睡眠時間、趣味、などです。
『いろいろ聞くと失礼じゃないの?』と思う方もいると思いますが、一つ一つが今後お客様に信用してもらうための情報素材になってきます。
自分の好きなことや話した内容を覚えてもらえていると嬉しいですよね?
お客様のことを知るためにも、多くの情報素材を集めておきましょう。
その中で、お客様の性格やタイプが見えてくることも多々あります。
ただし、ここで注意しなくてはいけないのが尋問になってはいけないということです。
ただ質問ばかりしてしまうのは尋問です。
聞くことに徹するといっても、トレーナーは何も話さないというわけではありません。
自分も言葉を発しますが、その言葉の裏には、お客様からの言葉を引き出すためのテクニックがあります。
会話例をみていきましょう。
このような感じです。
いきなり身体の悩みや目標を聞いてしまうと、お客様はどんどん『頑張らねばならない』というプレッシャーと、劣等感が強くなっていってしまい、さらに緊張のループに入っていってしまいます。
本題はひとまず置いておいて、お客様の興味があること・好きなことについて掘り下げて話を進めていきましょう。
その中で、お客様に共感できるところを見つけて、トレーナー側からも自分のことを小出しにしていく。
そして心を開いていく話題を少しずつ続けていけば、お客様からも、
『聞いてくれる』→『話してくれる』→『信頼感』という心理になりやすくなります。
お客様の興味のあること・好きなことをなるべく早く見つける。
先に興味のあることについて話題を広げ、共感部分を見つける。
以上のことを意識していきましょう。
⑷ 一対一でも気まずくさせない空気づくり。
パーソナルトレーニングは言うまでもなく、一対一の空間です。
トレーナーである我々は当然のことのように思いますが、一対一で運動を教えてもらうなど、お客様側からすれば今までにない異例の出来事とも言えます。そんな状況の中で、これから運動をするお客様を少しでも気持ちのいい雰囲気にさせてあげることも、トレーナーの大切な仕事であり、継続して通ってくれるコツでもあります。
基本的にお客様の方から話題を振ってくれることは少ないです。
トレーナー側から話題をつくり、広げるということを、指導をしながら行う必要があります。
ただ、内容が筋肉のことや身体に関する知識ばかりだと、ただの知識自慢になってしまいますから要注意です。
最初の頃はいいかもしれませんが、お客様からはだんだんと薄い反応になっていってしまいます。
では具体的にどんな内容の話をすれば良いのでしょう。
- 単発的な内容で会話はしない。
- 自虐ネタを使う。
- オチをしっかりとつける。
この3つがポイントです。
1.の単発的な内容というのは、
会話の内容がバラバラで、これだとお客様もリアクションに困ってしまいますし、何より話していて面白くありません。
より気まずい雰囲気になっていくだけです。
2、3を一緒に説明すると、オチがある自虐ネタを話すということです。
ちょっと自分が損をしてしまった話を、オチをつけて話しましょう。
トレーナーはお客様からすれば指導者であり、先生です。
もちろんトレーナー自身もその意識を持っておくべきなのですが、始めのうちにお客様との信頼関係を築くためには、先生でもそういうところあるんだ!と思わせることで、お客様の緊張も解けていきやすくなります。
いきなり自虐ネタを披露するのでなく、日常会話と絡めて話しましょう。
例えば、
自虐ネタを持ち出しながら、トレーニングに持っていくオチで自然な流れを会話に取り入れましょう。
⑸ これだけはNGな話し方・聞き方
これまでにオススメのテクニックを紹介してきましたが、最後にやってはいけないことを説明していきます。
話し方を振り返ってみて、ついついやってしまっているけど実はNGなことを見ていきましょう。
- 相手の話を遮る。
- 「はいはい」を多用する。
- 自分の経歴を自慢する。
- 声のトーンが一定すぎる。
1.相手の話を遮る。
当たり前と言えば当たり前なのですが、気づかないうちにやってしまいがちです。
痩せたい・綺麗な服を着たい・モテたいなどの願望は誰しもが持っているものです。
そんな悩みのお手伝いをするのがトレーナーなので、似たような目的の方も多く来るでしょう。
そうすると、話の途中でも相手の言いたいことがなんとなくわかってくるようになります。
しかし、そんな時でもお客様の話を最後まで聞きましょう。
悩みを最後まで全部打ち明けるだけでもお客様は満足します。
逆に途中で遮られ、話を全部聞いてくれないと、満足度や信用度は落ちてしまいます。
言いたいことがなんとなく理解できても、最後まで話をしっかり聞きましょう。
2.「はいはい」を多用する。
お客様の話の途中や話が終わった後などによく、「はいはいはい!」などとリアクションをとってしまう時は無いでしょうか。これは、心理学的に相手を不快にさせるばかりか、自分の言っていることを真剣に聞いてもらえてないという解釈が強まるそうですので、会話のたびについ言ってしまうことは避けた方が良いでしょう。
3.自分の経歴自慢をする。
フィットネスコンテストに出場する人が増えています。
一般の方も出場できる大会ですが、やはりトレーナーという身体を扱う仕事している身としては、一度は出場しておこうというトレーナーも多いようです。そこで入賞したり、優勝するトレーナーも大勢います。
それは本当に素晴らしいことです。
しかし実際のところ、お客様にとってはあまり重要な要素ではないことの方が多いです。
もちろんコンテストの成績は、一つの肩書きになることは間違いありませんが、お客様が本当に興味があるのは、『このトレーナーのトレーニングを受ければ、自分の身体はどう変わるのか』です。
トレーナーがいくら優秀な成績を残していようが、お客様の身体を変えなければ意味がありません。
自分の身体を変えるのと、人の身体を変えるのとでは、全くの別物です。
ですからカウンセリングの時に、自らの経歴をダラダラと話すのではなく、しっかりと聞くことに徹底しましょう。
4.声のトーンが一定すぎる。
一緒にいて楽しくない人の特徴として、テンションが全く変わらないという人がいます。皆さんの周りにもそんな人はいませんか?トレーナーの仕事をしている以上、それではお客様がついてきません。
言葉に強弱をつけて、話題に抑揚を持たせることで上手な会話が生まれます。
周りの情景を話すときはゆっくりと、行動を想像させる時は目を開いて身振り手振りにテンポよく話すなど、言葉が生きている話し方をしましょう。
【まとめ】
パーソナルトレーナーは、究極のサービス業です。
- 一対一の空間
- 人に運動を教える
- 継続させる言葉がけ
簡単ではない仕事だと思います。
しかし、それ以上にしっかりと結果を出せば、お客様から本当に感謝されるでしょう。
一人一人のお客様の性別・年齢・職業・性格などタイプは様々で、トレーナーである自分自身のスタイルを貫くことも大切ですが、やはりお客様に喜んでもらえることが第一です。
『トレーナーは言葉のプロである』
そう思われるように、皆さんの仕事の役に立てればと思います。
高月宏和(Hirokazu Takatsuki)
スポーツ系の専門学校を卒業後、J1リーグに所属する静岡の清水エスパルスに入社。
一般の方からプロ選手までのトレーニング指導を5年経験したのち、パーソナルトレーナーとして独立。
独立から7ヶ月後にパーソナルジム『BodyBrand』を設立。
主に一般の方の『美姿勢づくり』『ダイエット』をサポートするパーソナルジムとして定評があり、現在は5名のトレーナーと活動中。